経営理念に基づき従業員に求める役割(仕事)は何か、その役割(仕事)を達成するために実際にどれだけ行動したかということで人事考課を行います。
一言で『人事管理制度』と言っても、色んなアプローチの仕方があります。しかし共通して言えることは、人件費削減のための制度では従業員は付いてきてくれないということです。なぜなら、従業員はそれぞれの『思い』や『気持ち』を持った人間であり、お金を払って買う『物』ではないからです。
企業は従業員のどのようなところに価値を見出し、いくらなら払えるのかということと、従業員は自らの価値をどのように捉え、それをいくらで提供したいのかということについて、双方が納得して初めて適正な取引(労働条件)が成立すると言えるでしょう。そして、適正な取引で従業員の納得性を高めることが、ひいては全体的な価値水準の底上げに繋がってくると考えられます。
当事務所では、価値を判断するための基準を『潜在的に保有する能力』ではなく、『行動』に置くことで人事制度を構築します。つまり、従業員はどのような能力を持っているかということではなく、会社は経営理念に基づき従業員にどのような役割(仕事における行動)を求めているのか、その役割を遂行するために実際にどれだけ行動したかということで人事考課を行います。
テレワークや副業・兼業がさほど珍しくなくなった今、「ジョブ型」と言われる雇用システムが急激に脚光を浴びるようになりました。メンバーシップ型が残る日本では海外と同じように運用することはおそらく難しいのではないかと思いますが、多様な働き方に適応できるよう色んな可能性を模索していくことになっていくことでしょう。
業務フロー例
1.ヒアリング・資料収集
まず打合せにおいて、会社の経営理念やビジョン、制度構築の目的、ご要望などについてお尋ねします。併せて、現状分析のために提供いただいた資料を確認し、内容や進め方について協議させて頂きます(例えば、プロジェクトチームを作って進めるのかそれとも人事部主導で行うのか、人事考課制度のみの運用とするのか、賃金制度まで踏み込むのか、作業フェーズや日程など)。
2.現状分析
提供いただいた資料を元に、会社の現状をデータ的に把握します。また、同時に従業員インタビューを実施し、組織風土や職務内容、従業員ニーズの把握を行っていきます。また、インタビューにあたっては、現場の忌憚ない意見を吸い上げるため、会社側の立場の方には同席いただかず、原則コンサルタントのみが担当します。そして、そこで出てきた様々な意見については、個人が特定できないような形で会社に報告させていただきます。誰がどのようなことを考えているのかを、もっと具体的に知りたいと思われるかもしれませんが、匿名性を確保することによってこそ得られる現場の声は貴重なものです。従業員の多くは、おそらく会社が思っているよりもずっと会社のことを一生懸命考え、建設的な意見を出してくれるはずですから、ここはコンサルタントにお任せいただきたいと思います。
3.調査報告書
現状をさまざまな角度から分析した結果を、調査報告書という形でご報告します。また、社外の第三者であるコンサルタントの目からみたあるべき姿について、会社の方針に照らし合わせつつ協議し、今後の具体的な内容を決定していきます。
4.人事制度設計
現場の従業員の方たちとともに、一つ一つの業務を洗い出しながら課題を明らかにしていきます。そして、その課題を解決するためにはどのように行動することが必要なのかを考えて、評価の基準(基準書、人事考課表)を作っていきます。
この作業は、ボリューム的にも内容的にも一番苦労の多いところですが、会社やコンサルタントが一方的に決め従業員に事後報告するということでは、納得性のあるものにはなりません。『自分たちの会社』『自分達の働き方』を、どのようにしたいか、どうすればもっと良くなるのかについて、従業員一人ひとりが主体となって真剣に向き合って頂くことが公平性、納得性への第一歩であると考えています。
5.賃金制度設計
人事考課により評価した結果を、賃金制度に反映させるためのルールを決めます。現行の手当については必要に応じ整理統合し、また場合によっては賃金表を見直したうえで、シミュレーションしながら新たな格付けへと移行させていきます。
ときには、移行前後の格付けにより、労働条件が不利益に変更される従業員が発生することがありますので、経過措置を設けながら時間をかけて移行させていくことも検討します。
6.規程類の作成
人事評価制度ができれば、その内容を人事考課規程にまとめます。また、新制度への移行にあたって新たに生じる問題があれば、その対応を検討し、他の関連規程についても所要の改定を行います。
これら規程の改定にあたっては、合理性はもちろんのこと、従業員への丁寧な説明が欠かせません。従業員の理解を得ながら、法律上必要な手続きを経て進めていくことが大切です。
7.最終報告
これまでの経過、内容とその結果、残された課題等について報告致します。
8.従業員説明会
新しい制度について、従業員の方々へ説明して頂きます。中には、「コンサルタントから説明をして欲しい。』という要望をいただくことがありますが、基本的にはまずは会社からお話し頂くことをお奨めします。もちろん、制度構築にあたってはコンサルタントの支援があったかもしれませんが、新しい制度は誰のものでもない会社の想いが詰まった御社の制度です。新制度は受け入れ難いという思いの従業員も中にはおられるかもしれません。しかし、ここはやはり経営者の言葉で、会社がこれから向かおうとしているところを伝えていただかなければなりません。そして、それが従業員にとっても会社にとっても正しい方向で、そこに進んでいくための道標となるものだということを、直接説明していただくことが必要不可欠であると考えています。
就業規則等を変更する場合も、あらかじめ説明しておく必要があります。
9.意見聴取
賃金規程等、就業規則の変更を伴う場合には、従業員代表の方に、新たな就業規則に関する意見を聴取していただき、施行日までに労働基準監督署へ届け出ます。
10.運用支援
制度は、作ったらゴールというものではありません。運用していく中で、当初想定していなかったことや新たな問題が生じることも珍しくありません。それに、運用が本格化してから初めて見えてくることもあります。
これらの問題をできるだけ少なくするためには、試験運用期間を設けることや、場合によっては一斉開始ではなく一部部署での先行運用を経て全体に広げるなどして、ソフトランディングさせることも考えられます。
せっかく全社一丸となって作り上げた制度ですから、有意なものとなるようできる限り支援させていただきます。
また、どれだけ丁寧に制度を作り込んでも、時の流れとともに制度そのものをブラッシュアップさせる必要は、生じてくるものです。そう言った場合でも、ご希望に応じてフォローをさせていただきます。