適正な労働時間の管理と併せていかに生産性を向上させるか、そして従業員様にやりがいを感じて働いてもらえるかが大きなポイントです。
労働時間の管理については、どの事業主様も、おそらく大なり小なり悩みや問題を抱えておられるのではないでしょうか。もちろんその内容は様々でしょうが、内在する問題を掘り下げていくと、次の2つの問題に大別されるのではないかと思います。
これらの問題は、残念ながら簡単に解決策を見いだせるものではありません。そう考えれば、事業主様にとって人を雇用している限り常に向き合っていくことになる課題と言えるかもしれません。
1.残業代の問題
労働時間については、労働基準法という罰則を伴った法律によって、『原則、週40時間を超えて労働者を働かせてはならない。また、40時間を週の各日に振り分ける場合は、1日8時間を超えてはならない。』と定められ、これを超える(残業させる)場合には、一定の手続きを経たうえでなければ労働させることができません。また、手続きを経て残業させる場合でも、残業させた時間については法で定められた率以上の割増賃金(いわゆる残業代)を支払わなければならないことになっています。
使用者(企業)にとっては、所定労働時間内の「1時間」であっても、残業(所定労働時間外)の「1時間」であっても、1時間は1時間です。1時間に「1個」生産していたものが、残業時に必ずしも「1.25個」生産されるというわけではありません。そうすると、残業させればさせるほど金銭的な負担が増えるということになります。しかも、形のあるもの(商品)を生産する仕事であれば、少なくとも追加で働いた時間分の何らかの成果物が生まれますが、多種多様な仕事や働き方が珍しくない現代では、時間と成果が必ずしも比例するわけではありません。それに、成果は常に目に見える形で現れるとは限りませんし、時間が経ってから現れることもあります。そうすると、使用者にとっては、残業そのものの必要性について費用対効果をにらみつつ、常に頭を悩ませなければならないということになります。
使用者は同時に経営者でもあります。いかにして効率よく利益を生み出すかということを考えなければなりません。四角四面の法律に縛られていては、商売などとてもやっていられないと思うかもしれません。それに、自分自身が努力して来たという思いから「これくらいは社会人として責任をもって自主的にやるのが当たり前だろう」と考えたくなる気持ちも分からなくはありません。
しかし、先に述べたように、労働基準法は罰則を伴う強制力を持った法律であり、そのルールに必ず従わなければなりません。しかも、そこに定められているルールには『法定労働時間を超えたら割増賃金を支払いなさい』と、あくまで労働した時間数だけに視点がおかれ、生産性の良し悪しは考慮されません。
働き方や働く人の考え方は確実に変化してきています。また、賃金請求権の時効延長や割増賃金率の引き上げなど、法律もどんどん改正されています。時代の流れは止まることなく、今後もあらゆるものが変化を続けるでしょう。そのような中、企業もまた変化し続けなければ、本当の意味での生産性向上を目指すことは難しくなってくるのではないかと思います。
労働時間の管理は、単に時間数を把握し賃金を支払えばよいということではなく、一人ひとりの労働密度を高める仕組みを、いかにして作っていくかが大切だと考えています。
2.過重労働の問題
『過重労働』という言葉はよく目にしますが、人によって過重と感じる負担は異なります。それでは、一体どのような働き方が過重労働と言われるのでしょうか。
厚生労働省では『過重労働による健康障害防止のための総合対策』というものを策定し、時間外、休日労働の削減と労働者に対する健康管理の徹底を推進していますが、それによると、月の時間外労働が45時間を超え長くなればなるほど健康障害のリスクが徐々に高まり、2~6か月平均の時間外労働が80時間を超え、又はひと月で100時間を超えると健康障害のリスクが高いとしています。また、業務の過重性については、労働時間だけで決まるものでなく、その他の要因も含めて総合的に評価されるものであるとしています。
つまり、過重かどうかは労働時間の多寡だけでなく、担当する仕事の質や責任の度合い、勤務する時間帯などさまざまな要素が合わさったうえで、労働者にとって耐えうるかどうかというところで決まってくるものなのです。
しかしながら、どんなに健康的で体力にも自信があり、充実感を持って仕事に取組んでいる人であったとしても、長時間労働により睡眠時間が削られ続けると、やはり心身面で不調を来すリスクが高まることは疑いないところです。実際、労災補償の認定の際にも前述の80時間、100時間は判断基準の一つとされていますし、まさか〇〇さんが病気になるとは思わなかった・・・という話を聞くこともあります。
過重労働は一概に時間だけの問題でないとはいえ、長時間労働は要因の一つになることは間違いありません。そういう意味では、まずは労働時間を正しく把握し、改善すべき点があれば改善に向けた方策を打ち出すことが必要です。働き方が多様になった今、問題も複雑化しているように感じますが、従業員のみなさんに元気で働いてもらうことを心から望んでおられるのは、事業主様ではないでしょうか。
これからは・・・
そもそも労働時間に関するルール(法律)が出来た当時は、現在のような多様な業種、職種、雇用形態、働き方は想定されていなかったと思います。まして、会社に出勤しない働き方など想像すらされなかったはずです。もちろん、時代の移り変わりとともにそのルールも変更されてはきましたが、それでもなお、仕事に対して求められるものが量から質へと変化してきている今の時代には、まだまだ追い付いていないように感じます。
しかし、この問題をおざなりにすることは、もはや企業にとって得策とは言えません。簡単に解決する問題ではありませんが、何もしないことのリスクよりも少しずつ取り組んで前に進むことのメリットの方が大きいことは間違いありません。
これからは、法律のルールを守りつつ、いかに『不必要な』労働時間をなくすか、働く人が健康を損ねることなく100%以上のパフォーマンスを発揮できる環境を整えられるかが、企業の生き残りをかけた戦略の一つになるのではないかと思います。
単に「早く帰れ」と言うだけでは、働く人のモチベーションを下げてしまうことになりかねず、本当の意味での改善とは言えません。適正な労働時間と併せていかに生産性を向上させるか、働く人にやりがいを感じてもらえるかが大切なポイントです。時間はかかるかもしれませんが、当事務所では、本気で取り組みたいとお考えの事業主様とともに精一杯知恵と力を絞りたいと考えています。
ご提供サービス例
- 現状の労働時間の把握
- 問題点の抽出とその原因分析
- 事業所ごとの働き方を踏まえた改善策の検討
- 実効性を考慮した取組み内容の検討
- 取組みの振り返りと取組み継続の支援
- 従業員様向け説明会の実施
- 労働時間制度の周知ツールのご提供 など